生命

結婚する事を報告しようと、久々に実家へ。誰にも連絡をしていなかったせいか、家には最初犬がいたのみ。


ミニチュアダックスフントなのだが、もう18年生きている。かなりの老犬になってしまった。耳も遠くなり、玄関にカギがかかっていたため、裏の窓から泥棒のごとく浸入してきたもちおにも気づかない。目は白内障であまり見えず、呼びかけて触れてようやく人と認識するありさま。


久々に見るその痩せた姿に涙が出てくる。もちおが20歳の時に飼った犬だが、これまでどれほど家族を笑顔にさせてくれたか。世話など母親に放りっぱなしで、そのまま実家を出たもちお。いよいよ終わりが近づいてきたが、その時だけ可愛がる資格など無いだろう。しかし悲しいし、愛おしい。


しばし一人と一匹で過ごしていると、母親が弟夫婦と一緒に帰ってきた。弟夫婦には生後7ヶ月になる赤ん坊がいるが、もちおと会うのは初めて。全員驚いていた。そんなに実家に来てなかったかな…


奥さんの方は実はもちおの同級生で、学校や塾も同じで顔も覚えている。あんまり話をした事は無かったが、まさか弟と結婚するなんて誰が予想できたろうか。結婚後に会うのは初めてで、お互い妙な気分だったろう。かつての同級生、同い年だが妹だ。変なプレイみたいだ。


というわけで甥っ子を抱っこしたのだが、7ヶ月ってこんなでかいの⁈ウチは背が高い家系だが、えらくずっしりだ。これが始まりの命の重さか。ついさっき終わろうとする命を抱いていた腕。今は始まって躍動する命を感じている。


赤ん坊を抱きついでに「あ、俺も結婚するから、今日はその報告」と切り出すと更に皆驚いていた。まあなあ。弟などは「なんか、順序ってあるやろ」など言っていたがまあよいではないか。グダグダ言うなら甥っ子に仮面ライダー植え付けるよ?


最後は老犬と家の周り一周だけの散歩。確かになかなか帰れないもちお、これが最後になるかもしれない。ゆっくり、ゆっくりと歩いた。夜には仕事に行かねばならないスケジュールだったが、実家に行っておけて良かった。


世界中どこでも、命の終わりと始まりが繰り返されているのだろう。その中に我々は一瞬いるだけだ。そんなふうに一人悟った顔をしていたのだが、家→職場の間のアギト27話で全部吹っ飛んだ。記憶喪失→全てを思い出す→記憶喪失の流れに真剣に吹いた。一瞬の間にも人間はなかなか忙しい。